インシデント管理とは?よくある失敗を防ぐ体制構築とITIL準拠フローを解説

・インシデント管理の目的は、原因追及よりも迅速なサービス復旧を優先し、ビジネス影響を最小化すること。根本解決を目指す「問題管理」とは明確に区別する。
・インシデント管理は、検知・記録、分類・優先度付けからクローズまでの6ステップで実施。影響度と緊急度に基づく客観的な優先度付けが重要となる。
・記録の形骸化や属人化といった失敗を防ぐには、役割とエスカレーションルールを明確化し、共通ツールで情報共有を徹底する。
・活動の成果はMTTRやFCRで測定する。対応履歴はFAQや新人研修に活用し、組織の財産(ナレッジ)として蓄積・活用する。
・手動での記録やナレッジ参照には限界があるため、IT資産管理ツールなどのツールの導入が、管理業務の効率化と品質向上に直結する。
システムのトラブルが突然発生し、その対応に追われることはありませんか?
「インシデント管理」の体制が整っていないと、対応が場当たり的になり、復旧が遅れたり、同じ問題が再発したりとトラブルが続く可能性があります。
この記事では、ITILのベストプラクティスにもとづき、インシデント管理の基本的な知識から、失敗を防ぐための体制構築、具体的な管理フロー、そして管理を成功させるためのポイントまでをまとめて解説します。
・「インシデント管理」と「問題管理」の決定的な違い
・インシデントの具体的な事例と初動対応
・インシデント管理が組織にもたらす4つのメリット
・ITILに準拠したインシデント管理の6ステップ
・インシデント管理のよくある失敗例と対策
・失敗を防ぐインシデント管理体制を築く3つのポイント
・インシデント管理の成果を測る主要KPI
・インシデント管理に役立つIT資産管理ツール「SS1」
・まとめ
インシデント管理とは?ITILが示す「迅速な復旧」という目的

組織のIT環境では、日々さまざまなトラブルが発生します。
「システムにログインできない」「メールが送信できない」「業務アプリケーションが突然停止した」...こうした予期せぬ出来事は、業務の生産性を低下させ、場合によっては顧客サービスにも影響を及ぼします。
このような計画外の中断や障害に対して、組織的かつ効率的に対処する仕組みがインシデント管理です。ITサービスマネジメントのベストプラクティス集であるITIL(Information Technology Infrastructure Library)では、インシデント管理を重要なプロセスの一つとして位置づけ、その目的や実践方法を体系的に定義しています。
本章では、インシデント管理の基本的な定義と、ITILが示すその本質的な目的について解説します。
インシデントの定義:正常なサービスを中断させる計画外の出来事
ITサービスの分野におけるインシデントとは、「ITサービスの正常な運用を中断させる、またはその品質を低下させる可能性のある、計画外の出来事」を指します。
簡単に言えば、「いつも通り使えるはずのサービスが、何らかの原因で使えない、または使いにくい状態」のことです。ユーザーからの「メールが送れない」「システムにログインできない」といった問い合わせや、監視システムからの「サーバーダウン」のアラートなどが、すべてインシデントにあたります。
インシデント管理の目的:「原因追及」より「サービス復旧」を優先
インシデント管理とは、発生したインシデントを管理し、ITサービスマネジメントのベストプラクティス集である「ITIL」において、その目的を次のように定義されています。
つまり、インシデント管理の最大のミッションは、「原因の徹底追及」よりも「一刻も早いサービスの復旧」にあります。
この「復旧優先」という考え方が、インシデント管理を理解するうえで重要な点です。
「インシデント管理」と「問題管理」の決定的な違い

インシデント管理とセットで語られることが多いのが「問題管理」です。この2つは密接に関連しますが、目的と役割が明確に異なります。
| インシデント管理 | 問題管理 | |
|---|---|---|
| 目的 | 迅速なサービス復旧(応急処置) | 根本原因の特定と恒久的な解決(再発防止) |
| 対象 | サービスを中断させている個々の事象 | 複数のインシデントを引き起こす根本的な原因 |
| ゴール | ユーザーが業務を再開できる状態 | 恒久的な解決策を導入し、問題をクローズする |
インシデント管理が「今起きているPCフリーズを再起動で直す」活動なら、問題管理は「なぜフリーズが多発するのかを調査し、メモリ増設やアプリ改修で再発を防ぐ」活動です。両者を連携させることが、ITサービスの安定稼働に繋がります。
インシデントの具体的な事例と初動対応

インシデントの内容は多岐にわたります。カテゴリ別の具体例と、専門家でなくても試せる典型的な一次対応の例をみていきましょう。
| 事例 | 初動対応 | |
|---|---|---|
| ハードウェア障害 | 業務サーバーのダウン、PC・スマホの故障、プリンターの不具合 | 機器の再起動、ケーブルの再接続確認 |
| ソフトウェア障害 | 業務用アプリのフリーズ、OSアップデートの失敗、強制終了 | アプリケーションの再起動、PCの再起動 |
| ネットワーク障害 | 社内Wi-Fiに繋がらない、インターネットが遅い、VPN接続の失敗 | ルーターの再起動、Wi-Fiの再接続、有線LANでの接続試行 |
| セキュリティインシデント | 不審メールの受信、マルウェア感染の疑い、不正アクセス | ネットワークからの切断、パスワードの即時変更、情シス部門への報告 |
インシデント管理が組織にもたらす4つのメリット

インシデント管理体制を適切に運用することは、組織に多くのメリットをもたらします。
迅速なサービス復旧とビジネス影響の最小化
対応フローを標準化することで、担当者による対応品質のばらつきを抑えて迅速なサービス復旧を促し、インシデントによる機会損失や生産性低下を最小限に抑えます。
顧客満足度・従業員満足度の向上
サービス停止時間が短縮されれば、顧客や従業員の不満は軽減され、ストレスなく業務に集中できます。
対応ノウハウの蓄積と属人化の防止
対応履歴を記録・蓄積することで、それが組織のナレッジとなり、特定の担当者に頼る属人化を防ぎます。
インシデントの再発防止への貢献
蓄積されたデータを分析することで、障害が頻発する箇所や問い合わせの傾向を特定し、根本解決をおこなう「問題管理」への重要なインプットとなります。
ITILに準拠したインシデント管理の6ステップ

ITILに準拠した一般的なインシデント管理のフローを6つのステップは以下の通りです。
ステップ1:検知と記録
ユーザーからの申告や監視ツールのアラートでインシデントを「検知」し、内容の大小にかかわらず、すべて管理ツールに記録します。
ステップ2:分類と優先度付け
記録したインシデントを「分類」し、対応の「優先度」を決定します。優先度は、ビジネスへの影響度と対応の時間的制約である緊急度の2軸で判断するのが一般的です。
| 緊急度:高 | 緊急度:中 | 緊急度:小 | |
|---|---|---|---|
| 緊急度:高 | 1. Critical | 2. High | 3. Medium |
| 緊急度:中 | 2. High | 3. Medium | 4. Low |
| 緊急度:小 | 3. Medium | 4. Low | 4. Low |
※緊急度(高)の例:多数のユーザーに影響が出ている、代替手段がない
このような基準を設けることで、対応順位を客観的に判断できます。
ステップ3:一次対応
優先度にもとづき、サービスデスクがFAQなどのナレッジを参照しながら解決を試みます。
ステップ4:エスカレーション
一次対応で解決できない場合、専門知識を持つ二次・三次担当者へエスカレーション(対応の引き継ぎ)します。
ステップ5:調査と復旧
エスカレーションを受けた担当者が詳細な調査を行い、サーバー再起動や代替機提供など、暫定的な復旧を目指します。
ステップ6:クローズ
サービスが復旧し、ユーザーが正常な状態に戻ったことを確認できたら、最終的な対応内容を記録し、インシデントをクローズ(完了)します。
インシデント管理のよくある失敗例と対策

フローを導入しても、現場で形骸化してしまうケースは少なくありません。ここでは、よくある失敗例とその対策を解説します。
失敗例1:記録ルールが曖昧で形骸化する
課題
忙しさを理由に記録が後回しにされ、内容も担当者によってバラバラ。結果、後から見返しても役に立たない「記録のための記録」になってしまう。
対策:入力テンプレートを用意し、必須項目を明確にする
「発生日時」「影響範囲」「暫定対応」といった、最低限必要な項目を定め、選択式にするなど入力を簡略化する工夫が有効です。
失敗例2:対応フローが未整備でエスカレーションが滞る
課題
「この件はAさんに聞かないとわからない」といった状況が頻発。担当者不在時に対応が止まったり、一次対応者が誰かわからず、たらい回しが発生したりする。
対策:エスカレーションルールを明文化する
「ネットワーク関連ならBチーム」「会計システムならCチーム」のように、インシデントのカテゴリと担当チームを紐づけた対応表を作成し、誰でも判断できるようにします。
失敗例3:「とりあえず復旧」で終わってしまい、同じ問題が再発する
課題
インシデント管理の「復旧優先」の原則を守るあまり、根本原因の追及がおろそかになり、同じインシデントが繰り返し発生する「もぐら叩き」状態に陥る。
対策:「問題管理」プロセスへの連携をルール化する
「同一インシデントが月3回以上発生した場合」「影響度が『大』のインシデントが発生した場合」など、問題管理へ引き継ぐ基準を明確に定めます。
失敗を防ぐインシデント管理体制を築く3つのポイント

上述の点以外にも、インシデント管理における失敗の防止に役立つポイントは存在します。代表的なアイディアは下記の通りです。
ポイント1:体制の構築と役割の明確化
「誰が・何を・どこまで」担当するのか、役割と責任を明確に定義することが、迅速な対応の基盤となります。
例えば、下記のような役割分担が考えられます。
サービスデスク(一次受付)
すべてのインシデントの窓口。記録、優先度付け、一次対応、解決できない場合のエスカレーションを担当。
二次・三次担当チーム
専門技術を持つチーム。エスカレーションされたインシデントの調査・復旧を担当。
プロセス全体の責任者。特に影響の大きいインシデント発生時に指揮を執り、関係者間のコミュニケーションを円滑にし、最終的な対応判断を下す。
重要なのは、一次対応と二次対応チームが共通のツール上で情報を引き継ぐことです。
口頭やメールではなく、インシデントの記録に「試したこと」「分かったこと」を追記するルールを徹底することで、伝達漏れや重複作業を防ぎます。
ポイント2:ツールの活用による効率化
インシデントの記録、優先度付け、エスカレーション、ナレッジ共有といった一連のプロセスを手作業やExcelでおこなうには限界があります。
インシデント管理ツールなどの専用ツールを導入することで、これらの業務を効率化し、対応状況を可視化できます。
ポイント3:対応履歴のナレッジ化と具体的な活用法
対応履歴は組織の財産です。ただ記録して終わらせず、誰もが参照できる「ナレッジ」として活用する文化を醸成しましょう。
FAQの作成・更新
問い合わせの多いインシデントの解決策をFAQサイトにまとめることで、ユーザーの自己解決を促進し、サービスデスクの負荷を軽減します。クローズしたインシデント記録から、定期的にFAQの題材を探すのが効率的です。
新人研修への活用
過去に発生した典型的なインシデントの対応履歴を教材として利用します。これにより、新任担当者でも具体的な対応の流れをリアルに学べます
定期的な傾向分析
蓄積されたデータを月に一度レビューし、「どの部署からの問い合わせが多いか」「どの機器で障害が頻発しているか」といった傾向を分析します。
この分析結果は、再発防止策やIT投資計画の重要な根拠となります。
インシデント管理の成果を測る主要KPI

ここまで、インシデント管理を実施するにあたっておさえておくべきポイントをご紹介してきました。
これらの点を網羅して実際にインシデント管理を実行したあとは、その実効性を都度確認し、PDCAサイクルを回していくことが何より重要です。
インシデント管理の活動がうまくいっているかを客観的に評価する際は、下記のような概念が参考になります。
平均解決時間 (MTTR - Mean Time To Repair/Recovery)
インシデントが発生してから解決するまでの平均時間。この時間が短いほど、迅速に対応できている証拠です。
一次解決率 (FCR - First Call Resolution)
サービスデスクがエスカレーションなしに、最初の問い合わせで解決できたインシデントの割合。この比率が高いほど、サービスデスクのスキルとナレッジが充実していることを示します。
インシデント発生件数
一定期間内に発生したインシデントの総数。問題管理と連携して再発防止が進むと、同種のインシデント件数は減少傾向を示す可能性があります。
ユーザー満足度
インシデント対応後のユーザーアンケートなどで測定します。迅速さや丁寧さなど、対応品質の指標となります。
以上の考え方を参考に、それぞれに対してKPIを定め、日々のインシデント管理業務の効率化を目指してみましょう。
インシデント管理に役立つIT資産管理ツール「SS1」

インシデント管理を効率的におこなうには、ツールの活用が欠かせません。IT資産管理ツール「SS1」は、主要な資産管理機能に加えて、インシデント対応を支援する各種機能を備えています。
SS1を活用することで、インシデント対応に必要な情報を一元的に管理し、過去の対応履歴を機器ごとに記録できます。これにより、対応の属人化を防ぎ、サービスデスク全体の対応品質を向上させられるでしょう。
さらに、SS1はインシデント管理だけでなく、IT資産管理全般をカバーする多彩な機能を搭載しています。
差異表示機能
機器内で生じた構成情報の変化をタイムスタンプごとに比較できます。

PC操作ログ機能
「いつ、誰が、どのファイルにアクセスしたか」といったPCの操作ログを取得できます。これにより、インシデント発生時の原因調査が迅速におこなえます。
リモートコントロール機能
ユーザーのPC画面を遠隔で操作し、状況確認やトラブルシューティングを直接支援できます。円滑な遠隔サポートを実現します。
これらの機能を組みあわせることで、インシデントの受付から調査、復旧、記録までの一連のプロセスを効率的に実行し、管理業務全体の効率化に繋がります。
インシデント管理をはじめ、IT資産管理の多くの課題解決に貢献する「SS1」について、まずは詳しい資料で使用感や導入効果をご確認ください。他社製品との比較や費用についてのご相談も承ります。
まとめ

本記事では、インシデント管理の基本的な概念から、よくある失敗例と対策、実践的な体制構築のポイントまでを解説しました。
インシデント管理は、単なるトラブル対応ではなく、ビジネスへの影響を最小限に抑え、サービスの品質を維持・向上させるための重要な経営課題です。
場当たり的な対応しかできない状態の場合はぜひ脱却し、本記事で紹介したフローやポイントを参考に、自社の状況に合わせた体系的な管理体制を構築してみてはいかがでしょうか。
IT資産管理ツールSS1/SS1クラウドを開発・販売している、株式会社ディー・オー・エスの営業企画部メンバーで構成されています。IT資産管理・ログ管理・情報セキュリティ対策など、情シス業務の効率化に役立つ最新トレンド情報を随時発信中!

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