ITAMとITSM、ITOMの違いとITILとの関係とは?
現代の企業においてITの活用は必須であり、単にITを導入するだけでなく、その効率的な運用が求められています。ITの運用管理には、「ITAM」「ITSM」「ITOM」という3つの重要な概念があり、これらは密接に関連しながら企業のIT環境を支えています。
これらの実践的な方法を体系的に整理しされたフレームワークが「ITIL」です。それぞれの概念の違いと関係性を理解し、実務に活用できるようにしましょう。
IT資産管理(ITAM)とは
パソコンやプリンタ、ネットワーク機器などに貼られたシールに「資産管理番号」が記載されているのを見たことがあるかもしれません。これは、組織が保有している資産の調達から廃棄までを一元管理し、ある時点での保有資産を可視化することを目的としています。
ハードウェアであれば購入日や保守期限、配置場所、保証状況などを管理し、ソフトウェアであればバージョンやライセンス数、使用部署、契約条件などを管理します。保守契約やサポート契約がある場合は、その内容や有効期限も管理対象です。
このように、組織が所有するハードウェアやソフトウェア、ライセンス、契約情報など、ITに関する資産を管理する活動を「IT資産管理」といい、略してITAM(IT Asset Management)と呼ばれます。ITAMはコスト管理やコンプライアンス遵守だけでなく、資産を活用するための基盤だといえます。
ITSMとは
IT機器は購入するだけで問題なく動作するわけではありません。システムも導入するだけですぐに使えるわけではありません。
技術的に使える状態にするだけではなく、仕事の中で利用者が便利に使えるようにするためには、サービスとして提供することが考えられます。これを「ITサービス」といいます。
ITサービスには、正常に使える状態を維持することはもちろんのこと、パソコンが起動しなくなる、ネットワークに接続できなくなるといったトラブルを防ぐことも挙げられます。また、新しいバージョンが登場したときのアップデートなどの対応も必要です。
このようなITサービスを設計、提供、運用、改善を体系的に管理するのが「ITサービスマネジメント」であり、略してITSM(IT Service Management)といいます。ITSMは「サービス」に注目しているため、サービスの質と利用者体験の向上に注目し、顧客満足度を高めることを目的としています。
具体的には、システム障害などのインシデントの管理、根本原因の調査と恒久対策の実施、システムの変更管理、サービスレベルの維持・向上などが挙げられます。このように、ITSMは技術面からの管理だけでなく、ビジネスの目標を達成するためにサービス全体として管理することを指します。
ITOM(ITオペレーションマネジメント)とは
サーバーやネットワーク、データセンターなどのITインフラを24時間体制で運用・監視し、IT環境の安定稼働を維持するような管理をITOM(IT Operation Management)といいます。
ITOMは、単に正常稼働していることを監視するだけでなく、不具合や障害の兆候、負荷が高まったことによるエラー発生の可能性があるときに、必要な対応作業を自動的に実施することも含みます。これにより、障害を早期発見し、予防的な運用を実現できます。
ITOMはITSMの一部だと考えられることもありますが、一般的にITOMはより技術的な運用管理に特化しており、ITインフラの稼働状態をリアルタイムで把握することが求められます。自動化ツールや監視ツールが使われることも多く、人的負担の軽減と運用品質の向上を目指しています。
ITILとの関係
上記の3つのうち、ITSMについてのベストプラクティスを体系的に整理したフレームワークとしてITIL(Information Technology Infrastructure Library)があります。これは、ITサービスマネジメントの実践について詳しく書かれたもので、世界中の企業が標準的な指針として採用しています。
そして、このITILの中でも構成管理の部分がITAMに対応し、IT資産の管理方法を定めています。また、運用管理の部分がITOMに該当し、インフラの監視やイベント管理、障害対応などを含みます。
つまり、ITILはITAMやITSM、ITOMについての業務を統合的に管理し、ITサービスの品質向上と効率的な運用を支援するフレームワークです。これらは独立したものではなく、相互に補完し合う関係にあります。
たとえば、ITAMで管理しているIT資産はITOMにおいて監視や自動化に活用され、ITOMの運用状況はITSMのサービス改善にフィードバックされます。
つまり、IT環境の物理的、契約的な側面はITAMで管理し、ITOMやITSMで効率的な運用を支えていると言えます。ITILの導入により、これらの連携を強化し、IT運用を全体として最適化できます。
まとめ
ITAM、ITSM、ITOMはそれぞれ異なる役割を持ちながらも、企業のIT運用においては相互に連携し補完し合う要素であることがわかっていただけたでしょうか。
ITILのベストプラクティスを採用することで、ITの持つ価値を最大化するために、効率よく管理することが求められています。今後のIT環境の複雑化に対応するためにも、これらの概念とフレームワークを理解しておきましょう。

増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)、情報処理技術者試験にも多数合格。
ビジネス数学検定1級。
「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピューターを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や各種ソフトウェア開発、データ分析などをおこなっている。
著書に『図解まるわかり セキュリティのしくみ』『図解まるわかり プログラミングのしくみ』『図解まるわかり アルゴリズムのしくみ』『IT用語図鑑』『IT用語図鑑[エンジニア編]』『Pythonではじめるアルゴリズム入門』『プログラマ脳を鍛える数学パズル』『プログラマを育てる脳トレパズル』(以上、翔泳社)、『プログラマのためのディープラーニングのしくみがわかる数学入門』『プログラミング言語図鑑』(以上、ソシム)、『基礎からのプログラミングリテラシー』(技術評論社)、『RとPythonで学ぶ統計学入門』(オーム社)などがある。