デジタルフォレンジックとは?調査の目的から手順を解説

デジタルフォレンジックとは、PCやスマートフォン、USBメモリなどのデジタル機器に残された記録を収集・解析し、不正行為の法的な証拠をみつけだす調査技術です。「フォレンジック」とは法医学を指す英単語に由来し、デジタル分野の科学捜査と考えると理解しやすいでしょう。
サイバー攻撃や内部不正が増加するなか、インシデント発生時に被害の全容を正確に把握し、適切な対応へつなげるための基盤として、この調査手法への需要が高まっています。本記事では、デジタルフォレンジック調査の目的から具体的な手順まで、その基礎を解説します。
・デジタルフォレンジックが現代のセキュリティ対策で重要視される3つの理由
・デジタルフォレンジック調査で対応可能なトラブル例
・デジタルフォレンジックの主な調査対象と分かること
・法的証拠能力を担保するデジタルフォレンジックの4つの調査手順
・信頼できるデジタルフォレンジック調査会社を選ぶための3つのポイント
・セキュリティインシデント時に証拠を失わないための注意点
・まとめ
・スムーズなフォレンジック調査の鍵となる「IT資産管理ツール」
デジタルフォレンジック調査とは

デジタルフォレンジック調査とは、デジタルデータが法的な証拠として扱われることを前提に、正当な手続きに則って証拠の収集・保全・解析をおこなう一連の活動を指します。警察の科学捜査と同様、裁判など法律が関わる場で証拠能力を維持するためには、手続きの正当性や透明性が強く求められます。
調査期間は、事案の複雑さやデータ量に依存します。被害状況の初期把握(トリアージ)であれば、24時間から数日で完了するケースもあります。一方、消されたデータの復元や詳細な解析、法廷提出用の報告書作成まで含めると、数週間から数ヶ月を要することも少なくありません。
単にデータを復元するだけでなく、厳格なルールのもとで事実を客観的に証明するプロセスである点が、一般的なデータ復旧との大きな違いです。組織として有事に備える際は、こうした専門的な手続きへの理解が欠かせません。
デジタルフォレンジックが現代のセキュリティ対策で重要視される3つの理由

近年の高度化・巧妙化するサイバー攻撃に対応するため、デジタルフォレンジックはセキュリティ対策やインシデント後の監査プロセスにおいて中心的な役割を担うようになりました。
インシデント発生後の対応だけでなく、将来起こりうる問題への備えとしても、その重要性は年々増しています。被害の正確な把握、法的な証拠確保、そして効果的な再発防止策の策定という3つの側面から、現代の組織にとって欠かせない要素となっています。
理由1:サイバー攻撃の被害範囲と原因を特定するため
サイバー攻撃を受けた際、攻撃者がどのネットワークに侵入し、どの範囲のデータにアクセスしたのかを迅速に把握することは、適切な初動対応の基本です。デジタルフォレンジック調査によって、ログファイルやネットワークの通信記録などを解析し、現在進行形で起きているインシデントの全体像を洗い出します。
これにより、「どこを隔離し、どのシステムを停止すべきか」を的確に判断できるようになり、情報漏洩やシステム破壊などの二次被害を食い止められます。
理由2:訴訟や法的手続きで用いる客観的な証拠を収集するため
デジタルフォレンジック調査によって収集・解析されたデータは、不正行為者を相手取った損害賠償請求訴訟や、警察への被害届提出の際に客観的な証拠として活用されるのが一般的です。
証拠として法的に認められるためには、手続きの正当性(適法収集)、証拠の真正性・改ざん防止、解析の正確性・客観性、証拠能力の証明、個人情報等の保護への配慮、証拠の継続管理(チェーン・オブ・カストディ)といった要素を満たすことが求められます。
専門家が適切な手順で収集した証拠は、法廷での主張を裏付ける強力な材料となり、組織の正当性を証明するうえで重要な根拠となります。
理由3:インシデントの根本原因を解明し、的確な再発防止策を打つため
被害の収束後、同じようなトラブルを繰り返さないためには「なぜ防げなかったのか」を明らかにする必要があります。調査を通じて、攻撃者がどの脆弱性を悪用したのか、あるいはどのような手口で内部不正がおこなわれたのかを深く分析できるのがこの技術の強みです。
分析結果をもとに、組織はセキュリティポリシーの見直しやツールの強化、従業員教育の改善など、実効性のある対策を打ち出せます。場当たり的な対応ではなく、客観的な事実に基づいた改善策こそが、組織全体のセキュリティレベル向上に直結していくでしょう。
デジタルフォレンジック調査で対応可能なトラブル例

デジタルフォレンジック調査は、サイバー攻撃から内部不正、労務問題まで、デジタルデータが関わるさまざまなトラブルの解決に対応できます。
ここでは、組織において具体的にどのようなトラブルに対応できるのかを紹介します。
【サイバー攻撃】公立病院におけるランサムウェア被害と侵入経路の解明
2021年、国内の公立病院においてランサムウェア感染により電子カルテが使用不能になる大規模なシステム障害が発生しました。こうしたケースにおいて、デジタルフォレンジック調査は極めて重要な役割を担うことになります。
ネットワーク機器やサーバーのログを解析した結果、VPN機器の脆弱性が侵入経路であったことが特定されました。どの範囲のデータが外部に送信されたかなどを調べ、情報漏洩の有無を判断するうえで、この調査手法は大きな効力を発揮しています。
【サイバー攻撃】国内大手航空会社におけるビジネスメール詐欺(BEC)の被害
経営層や取引先になりすました偽のメールで送金を指示するビジネスメール詐欺(BEC)も、深刻なトラブルの一つです。
2017年には、国内の大手航空会社が偽の請求書を信じ込み、数億円を送金してしまう被害が起きました。このようなインシデントはニュースとして報じられ、株価や組織の信用に直接的な悪影響をおよぼす可能性があります。
フォレンジック調査によって詐欺メールの送信元や改ざんの手口を特定し、被害範囲を正確に把握できれば、関係者への適切な説明責任を果たすことにつながります。
【内部不正】競合先へ転職した元社員による技術情報の不正持ち出し
退職予定の従業員が競合先へ転職する際に、顧客リストや技術情報などの機密情報を不正に持ち出すケースは後を絶ちません。
過去には、国内の大手通信キャリアに勤めていた元社員が、最新の通信規格に関する技術情報を不正取得した事件が摘発されました。調査において個人のPC操作履歴を解析し、クラウドストレージへのアップロードといった不正行為の決定的な証拠を特定しています。
これにより、損害賠償請求や刑事告訴など、法的な措置を取るための根拠が固められたのです。
【内部不正】出向先での内部情報持ち出しがフォレンジック調査で判明したケース
2026年5月、外資系の生命保険会社において、複数の社員が出向先の代理店で内部情報を無断で取得していたことが明らかになりました。調査の結果、業績データや販売方針、他社の商品情報などが、紙資料の電子化や私用スマートフォンでの撮影といった手段を通じて持ち出されていたことが判明しています。
この事案では、社内調査に加えてデジタルフォレンジック調査が実施され、パソコン内のデータ復元や操作履歴、スマートフォンを用いた情報取得の痕跡が確認されました。その結果、組織として把握しきれていなかった情報取得の実態が明らかになり、監督当局への報告や再発防止策の策定につながっています。
このように、内部不正は本人の申告や聞き取りだけでは把握が難しく、デジタルフォレンジックによる客観的な調査が事実解明の決め手となるケースも少なくありません。
【労務問題】組織内でのハラスメントやコンプライアンス違反の事実確認
組織内でパワーハラスメントや情報漏洩などのコンプライアンス違反が疑われる場合、当事者間の主張が食い違うことが少なくありません。デジタルフォレンジックは、PCやスマートフォンに残された客観的な証拠を明らかにする手段として有効に機能します。
例えば、チャットツールで送信後に削除されたメッセージを復元したり、不適切なWebサイトの閲覧履歴を特定したりすることで、人事部門や法務部門が公平な判断を下すための強力な裏付けとなります。
デジタルフォレンジックの主な調査対象と分かること

デジタルフォレンジックの調査対象となる機器はPCやサーバーにとどまらず、スマートフォン、ネットワーク機器、クラウドサービスなど多岐にわたります。それぞれの対象から、トラブル解明につながるさまざまな情報を読み解くことが可能です。
ここでは、代表的な調査対象と、どのような方法や手法で事実を明らかにするのかを解説します。
コンピュータフォレンジック:PC内のファイル操作や削除データを解析
コンピュータフォレンジックは、PCやサーバーのハードディスク、SSDなどの記録媒体を調査対象とします。ファイルやフォルダの作成・アクセス・変更・削除といった操作履歴について、詳細な追跡をおこなう手法です。
また、ゴミ箱から削除されたデータや、意図的に消去されたデータも、専門的な手法を用いることで復元できる場合があります。ただし、データが上書きされたり、OSの再インストールなどで初期化されたりすると、復元が困難になるケースも少なくありません。
モバイルフォレンジック:スマートフォンから通信履歴や位置情報を調査
モバイルフォレンジックは、スマートフォンやタブレット端末を対象とする調査分野です。デバイスに保存されている写真・動画や通話履歴、SMS、各種SNSアプリのメッセージなどの解析をおこなっていくのが特徴となっています。
さらに、GPS機能から得られる位置情報を時系列で追跡することで、端末所有者の行動把握にも役立ちます。これにより、内部不正の共犯者の特定や、事件当日のアリバイ証明など、多角的な視点からの事実解明に直結するアプローチといえるでしょう。
ネットワークフォレンジック:通信ログ(パケット)を監視し不正侵入を追跡
ネットワークフォレンジックは、ファイアウォールやルーター、プロキシサーバーなどのネットワーク機器に残された通信ログ(パケット)を調査対象とします。不正アクセスの兆候を検知し、攻撃者のIPアドレスや侵入経路、攻撃手法などを特定するプロセスです。
近年利用が拡大しているクラウドサービス上の通信も監視対象となり、外部からのサイバー攻撃だけでなく、内部からの不正なデータ送信などを追跡するうえでも極めて重要な役割を果たします。
データベースフォレンジック:データベースへの不正アクセスや情報改ざんを特定
データベースフォレンジックは、顧客情報や製品情報などが格納されたデータベースシステムを専門に調査します。
データベースのアクセスログを解析することで、「誰が」「いつ」「どのデータに」アクセスし、「どのような操作(閲覧、追加、変更、削除)をおこなったか」を正確に特定可能です。
これにより、内部関係者による顧客情報の不正閲覧や、データの意図的な改ざんといったインシデントの真相についても明らかになります。
法的証拠能力を担保するデジタルフォレンジックの4つの調査手順

デジタルフォレンジック調査は、前述の「理由2」で触れた法的要件を満たすために、世界的に標準化された手順に則って進められます。主に「証拠保全」「データ解析」「情報分析」「報告書作成」という一連の流れで構成されているのが特徴です。
ステップ1:証拠保全|データの完全性を維持する最重要工程
証拠保全は、調査対象となるPCやサーバーなどの記録媒体から、一切の変更を加えることなくデータを複製する、最も重要な工程です。
元のデータ(原本)を直接操作することは厳禁とされており、専用の機材を用いてビット単位で完全な複製を作成したうえで、原本と複製データのハッシュ値が一致することを確認しなければなりません。
ハッシュ値はデータの指紋のようなものであり、この一致をもって、複製されたデータが原本と同一であることが数学的に証明されるのです。
ステップ2:データ解析|消去された情報の復元と解読
次のステップでは、保全した複製データに対して専門的な解析ツールを使用し、インシデント解明の手がかりとなる情報を抽出します。
この工程では、OSからは見えなくなっている削除済みファイルの復元や、暗号化されたデータの解読、ファイルの断片から情報を読み解く作業などがおこなわれます。調査官は高度な技術知識を駆使して、隠されたデータや意図的に消された痕跡をみつけだします。
ステップ3:情報分析|不正行為の痕跡を特定し、事案の経緯を再構築
データ解析によって抽出された膨大な情報のなかから、インシデントに関連する証拠を洗い出し、それらを時系列に沿って整理・分析する工程です。
例えば、不正アクセスであれば、侵入の痕跡、不正なプログラムの実行履歴、外部へのデータ送信記録などを結びつけ、攻撃のシナリオを再構築します。この情報分析を通じて、断片的なデータの集まりが意味のある情報へと昇華し、事案の経緯が明らかになっていきます。
ステップ4:報告書作成|調査結果を法的に有効な形で文書化
最終ステップとして、調査の全プロセスと分析結果をまとめた報告書を作成します。
この報告書には、どのような手順で証拠保全と解析がおこなわれたか、どのような事実が判明したか、そしてその根拠となるデータは何か、といった内容が客観的かつ詳細に記載されます。
法務担当者や経営層、裁判官など、ITの専門家ではない人が読んでも理解できるように、平易な言葉で論理的に記述されることが重要です。
信頼できるデジタルフォレンジック調査会社を選ぶための3つのポイント

デジタルフォレンジック調査は高度な専門性が求められるため、多くの場合は第三者の専門機関に依頼することになります。
国内にも海外の組織を含め、多くの民間サービスが存在しますが、いざ有事となったときに後悔しない選択をするためのポイントを3つ押さえておきましょう。
ポイント1:専門資格を持つ調査官の在籍と豊富な実績を確認する
調査の品質は、調査官個人のスキルと経験に大きく依存します。そのため、国際的に認められたフォレンジック関連の資格(EnCE、GIACなど)を保有するエンジニアや専門家が在籍しているかは、技術力をはかる重要な指標です。
また、過去にどのような調査実績があるかを確認することも欠かせません。特に、警視庁などの捜査機関での実務経験者や、自組織が直面している問題と類似した案件の対応経験が豊富な会社は、信頼性が高いといえます。
ポイント2:客観性と証拠能力を担保できる調査体制が整っているか
調査結果の客観性と法的な証拠能力を担保するためには、調査プロセスが標準的な手続きに準拠しているか、調査内容を複数人でレビューする体制が整っているかなどを確認しましょう。
特定のソフトウェアや製品に依存したソリューションを提供するだけでなく、事案に応じて最適な手法を選択できる総合的な技術力をもつ調査部門が望ましいです。
ポイント3:調査費用の見積もりや内訳が明確に提示されるか
デジタルフォレンジックの調査費用は、調査対象の機器の台数やデータ量、調査の難易度によって大きく変動します。
そのため、依頼を検討する際は、事前に明確な見積もりを提示してくれる会社を選びましょう。単に総額の料金だけでなく、「どの作業にどれくらいの費用がかかるのか」といった内訳が詳細に示されていることが重要です。
追加費用が発生する可能性やその条件についても契約前に確認し、依頼後のコミュニケーションのラインを明確にしておくことで、後のトラブルを未然に防げます。
セキュリティインシデント時に証拠を失わないための注意点

重要な痕跡を残しているログの大半には、保存期間が設定されています。インシデントの発覚や証拠保全までに時間がかかると、事故当時のログが流れてしまい、十分な調査が実施できない場合があるため注意が必要です。
また、攻撃者は自身の痕跡を消去することが多く、時間の経過とともに証拠が失われやすくなります。
加えて、不用意な組織内での確認作業によって攻撃者の痕跡が上書きされ、調査に支障をきたすことも少なくありません。そのため、迅速かつ適切な証拠保全が求められます。
証拠を確実に残すために、避けるべき行動について次項で詳しく説明します。
やってはいけないこと①:調査対象機器のシャットダウンや再起動
インシデントが疑われるPCやサーバーをシャットダウンしたり、再起動したりするのは避けてください。
コンピュータのメモリ(RAM)上には、OSが起動している間だけ保持される「揮発性データ」が存在します。ここには、実行中のプロセスやネットワーク接続の状況など、不正アクセスの痕跡を追跡するうえで非常に重要な情報が含まれています。
電源を切るとこれらの情報はすべて失われてしまいます。
やってはいけないこと②:自己判断による安易な設定変更
不正アクセスが疑われると、被害拡大を防ぐためにすぐに端末をネットワークから物理的に隔離する(LANケーブルを抜くなど)対応が基本となります。
しかし、この際にシステム上のネットワーク設定を変更したり、セキュリティツールで無理に遮断処理をおこなったりすると、元の設定や通信ログが上書きされ、侵入経路を特定する手がかりが消えてしまう危険があります。
まずは隔離によって被害の拡大を防ぎつつ、その後の対応は現状を維持して専門家の指示を仰ぐのが賢明です。
やってはいけないこと③:ウイルス対策ソフトによる安易なスキャンや駆除
ウイルス対策ソフトでスキャンを実行し、検出されたマルウェアを安易に駆除・隔離するのも避けるべきです。マルウェア自体が、攻撃者の目的や手口を示す重要な証拠物となります。
ウイルス対策ソフトによる処理は、ファイルのタイムスタンプ(作成日時や更新日時)を変更したり、ファイルを完全に削除したりすることがあり、後の詳細な解析を困難にする原因になりかねません。
まとめ

デジタルフォレンジックは、サイバー攻撃や内部不正といったインシデントが発生した際に、その原因を究明し、法的な証拠を確保するための不可欠な技術です。
単にデータを復旧するだけでなく、厳格な手順に則って証拠を保全・解析し、インシデントの全容を解明することで、具体的な再発防止策の策定にもつながります。
万が一の事態に備え、日頃のログ管理体制を整えるとともに、信頼できる専門家やサービスを事前に把握しておくことが現代の組織運営において重要です。
スムーズなフォレンジック調査の鍵となる「IT資産管理ツール」

万が一インシデントが発生した際、デジタルフォレンジック調査を迅速かつ正確に進めるための鍵となるのが「日頃からのログ取得」です。PCの操作履歴やファイルの持ち出し記録が残っていなければ、いくら専門家であっても被害の全容を解明するのは非常に困難になります。
弊社が提供するIT資産管理ツール「SS1」「SS1クラウド」では、PCの各種操作ログやWeb閲覧ログ、デバイスの接続履歴などを自動で取得・長期間保存できます。これにより、内部不正の抑止はもちろん、有事の際にも速やかに調査へ移行できる強固な基盤を構築可能です。
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