増えるIoTデバイスの管理で発生する課題とは
私たちの身の回りには、インターネットに接続された機器が増えています。パソコンやスマートフォン、タブレット端末だけでなく、いわゆるIoT(Internet of Things)デバイスと呼ばれるものです。エアコンや洗濯機、冷蔵庫などの家庭用機器、自動車や医療機器、工場のセンサーといった多種多様なデバイスが登場し、データを収集して活用することが期待されています。
プライベートで使うだけでなく、業務として使うことを考えると、IoTデバイスの数が増えるにつれて、その管理や運用に関する課題が発生します。
IoTデバイスの増加と管理の課題
IoTデバイスの数が増えたときにまず問題となるのが、接続するネットワークの選定とインフラ整備です。
一般的な家庭用の無線LANルーターでは、接続できる台数に限界があり、大量のデバイスを同時に接続することはできません。多くのIoTデバイスを接続するには、ビジネス向けのルーターを使用するとともに、アクセスポイントの数を増やさなければなりません。
当然、送られてくるデータの量も増え続けます。デバイスから送信されるデータも、単純なテキストデータではなく、防犯カメラのように映像や音声を転送することも増えています。
そして、これらのデータをクラウドと呼ばれる遠隔地にあるサーバーで管理することが求められます。これらのデータの送受信には時間がかかるため、リアルタイムでの応答が求められる場面では遅延が問題となります。
さらに、IoTデバイスにもファームウェアなどの更新プログラムが提供されることがあります。つまり、使っているソフトウェアに脆弱性が見つかった場合は、利用者が更新しなければなりません。管理が行き届かないと、セキュリティリスクが増大し、攻撃の入口にもなり得ます。
このように、多くのIoTデバイスがネットワークに接続されることで、セキュリティリスクが高まり、管理が複雑化する点も無視できません。これらの課題を解決するために注目されているのが「エッジコンピューティング」と「5G通信」なのです。
エッジコンピューティングとエッジAIの広がり
エッジコンピューティングは、IoTデバイスが集めたデータを遠くのクラウドに送るのではなく、データの発生源に近い場所、つまり「エッジ」と呼ばれる端末やローカルのサーバーで処理する技術です。
たとえば、工場の敷地内や施設内にIoTデバイスを設置し、その端末やローカル環境のサーバーでデータを分析して、異常があれば即座に対応する仕組みです。
これにより、クラウドとの間でデータを送受信するのにかかる時間を大幅に短縮でき、リアルタイム性が必要な場面での遅延を減らせます。当然、データをクラウドに送る必要がなくなると、ネットワークの負荷も軽減されます。
さらに、エッジコンピューティングの進化形として「エッジAI」があります。これはエッジにある端末でAI(人工知能)を使ってリアルタイムにデータを解析する技術です。
たとえば、工場で生産された製品をカメラで撮影し、それをリアルタイムで分析すると、不良品を検知したときに即座に警告を出せます。施設内の音声や振動データから異常を予兆検知して保守作業を自動でスケジュールすることもできるかもしれません。
このように、エッジAIの導入により、安全管理を自動化でき、現場の効率化に大きく貢献することが期待できます。機密性の高いデータをクラウドに送らずにローカルで処理できるため、プライバシーの観点でもメリットがあります。
5G対応IoTデバイスの拡大
もう1つの技術が5G通信です。第5世代移動通信システムのことで、高速・大容量・低遅延・多数同時接続といった特徴があります。つまり、従来の4Gに比べて通信速度が格段に速く、遅延も非常に少ないのが特徴です。
さらに、多くのデバイスを同時に接続しても安定した接続を提供できるため、IoTのように多数の機器がネットワークに繋がる環境に最適な通信技術だといえます。
IoTデバイスも5Gへの対応が広がっており、工場のロボットや自動運転の車、スマートシティのセンサーなど、高速かつ低遅延の通信によりリアルタイムでのデータ交換や制御ができるようになりました。
このエッジコンピューティングと5G通信を組み合わせることで、エッジでのリアルタイム処理と5Gの高速通信が実現でき、多数のデバイスが同時接続している環境でも安定した通信を維持できます。
このようなエッジでの性能向上、5Gでの高速通信なども関係し、ファームウェアの更新についても、OTA(Over-The-Air)アップデートという手法が広がり、リモートから更新できるようになりました。
遠隔地のデバイスも高速かつ正確に制御できる環境が整ったことから、導入している組織も増え、サービスの多様化や付加価値の向上につながっています。
まとめ
情報システム担当者としては、こういった技術の動向を把握し、自社で必要な機能を持ったIoTデバイスの導入に向けた管理体制を整えることが求められます。多数のデバイスが接続される環境ではセキュリティリスクも高まるため、デバイスの導入だけでなく更新などを含めた運用設計が重要です。
さらに、AIや管理ツールを活用した運用管理の自動化も検討されています。

増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)、情報処理技術者試験にも多数合格。
ビジネス数学検定1級。
「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピューターを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や各種ソフトウェア開発、データ分析などをおこなっている。
著書に『図解まるわかり セキュリティのしくみ』『図解まるわかり プログラミングのしくみ』『図解まるわかり アルゴリズムのしくみ』『IT用語図鑑』『IT用語図鑑[エンジニア編]』『Pythonではじめるアルゴリズム入門』『プログラマ脳を鍛える数学パズル』『プログラマを育てる脳トレパズル』(以上、翔泳社)、『プログラマのためのディープラーニングのしくみがわかる数学入門』『プログラミング言語図鑑』(以上、ソシム)、『基礎からのプログラミングリテラシー』(技術評論社)、『RとPythonで学ぶ統計学入門』(オーム社)などがある。