復元まで考慮してバックアップを運用できていますか?
私たちが日常生活で撮影した写真やビジネスで作成した書類など、さまざまなものがデジタルデータとしてパソコンやスマートフォンなどに保存されています。
こういったデータはファイルとして保存されていますが、故障などの予期せぬトラブルによって失われる可能性があります。
こうしたトラブルによってデータが失われることを防ぐためにはバックアップが重要です。
また、バックアップを取得しておくだけでなく、トラブルが発生したときに速やかに復元(リストア)できるような手順を確立しておくことが求められます。
バックアップの重要性
データが失われる理由を考えたとき、ハードウェアの故障、ランサムウェアなどのウイルスへの感染、データの上書きや削除といった人為的なミス、災害や盗難など、さまざまな原因が挙げられます。
いずれの原因であっても、ビジネスで使うデータが失われると、そのデータを作成するのに費やした時間が無駄になるだけでなく、顧客への対応などが必要になることもありますし、取引先の信頼を失うことにつながります。
データが失われると、その復元には莫大な時間とコストがかかりますし、最悪の場合、ビジネスの存続にまで影響を及ぼす可能性があります。
個人で保存しているデータも同様で、大切な家族写真や連絡先の情報、メモや日記など失いたくないデータは数多く存在します。
データが消失してからその重要性に気づくことが多いものですが、事前にバックアップをとっておきさえすれば、こうした悲劇を未然に防げます。
なお、バックアップを取得するときに考慮すべきこととして、次のようなものが挙げられます。
1. 取得する頻度
バックアップを取得していても、それが1年前のデータでは役に立たないことも多いでしょう。頻繁に更新されるデータについては、その更新の頻度に合わせてバックアップを取得することが求められます。
このとき、すべてのデータについて同じ頻度でバックアップすることが求められるわけではありません。業務で使うデータであれば毎日、もしくはそれ以上の頻度でのバックアップが必要ですが、個人が自宅で使うパソコンであれば週単位や月単位のバックアップで十分なこともあります。
オンラインショッピングのデータを保存しているデータベースのように重要なデータについては、リアルタイムでバックアップを取ることが求められることもあります。
2. バックアップの保存場所
1か所にだけバックアップを保存していると、その場所が災害や事故で損傷した場合にすべてのデータを失うリスクがあるためです。
このような場合に備えて、地理的に離れた場所にデータを保存することも検討します。
3. バックアップの自動化
手動でのバックアップは忘れがちで、定期的な実行が難しいものですが、自動化しておくことで、確実にデータを保存できます。
外付けハードディスクやクラウドストレージの活用
バックアップとしてデータのコピーを保存しておくと、データが失われたときにも、それを使って復元できます。
このとき、バックアップをどこに保存するかを考えなければなりません。
もし元のデータが入っているハードディスクなど同じ媒体に保存していると、それが故障したりウイルスに感染したりすると、バックアップも失われてしまいます。
このため、異なる媒体にバックアップを保存する必要があります。
このとき、外付けハードディスクやUSBメモリなどの外部ストレージに保存する方法と、Google DriveやOneDrive、Box、Dropboxなどのクラウドストレージに保存する方法が考えられます。
そして、これらを組み合わせることも検討します。
保存先1)外部ストレージ
外部ストレージは、手軽にデータをバックアップしたいときによく使われます。
パソコンやサーバーに接続するだけで使えるため、インターネットへの接続が不要で、高速に保存できるメリットがあります。
特に、大容量のデータを短時間でバックアップしたい場合や、インターネットの利用が制限されている環境では外部ストレージが最適です。
また、外部ストレージは一度購入すれば追加のコストがかからないため、長期的な運用コストを抑えられる点もメリットです。個人ユーザーから小規模なビジネスまで、手軽に導入できるバックアップ手段として人気があります。
一方で、外部ストレージも故障する可能性がありますし、紛失や盗難によってバックアップしたデータが完全に失われる可能性があります。
このため、外部ストレージだけにバックアップを依存するのはリスクがあります。
保存先2)クラウドストレージ
クラウドストレージは、インターネット上のサーバーにデータを保存するサービスです。
インターネットに接続されていれば、どこからでもアクセスできるだけでなく、地理的に離れた場所にデータを保存することで、災害や事故によってデータが失われるリスクを大幅に減らせます。
また、必要に応じて容量を柔軟に増やせることも特徴です。
ビジネスで使うデータは、最初から必要な容量を正確に見積もることが難しいこともありますが、クラウドストレージであれば追加で費用を支払うだけで容量を変更できます。
一方で、高速なインターネット回線がないとバックアップや復元に時間がかかることがありますし、セキュリティ上のリスクを懸念することもあります。
外部からの不正アクセスなどによる漏洩のリスクをゼロにすることはできませんが、信頼できるサービスを選んだり、データをアップロードする前に暗号化したりするなど、セキュリティを高める方法が考えられます。
3-2-1ルール
外部ストレージとクラウドストレージにはそれぞれメリットとデメリットがありますが、これらを組み合わせることでより効果を発揮します。
一般に、バックアップの考え方として「3-2-1ルール」があります。
これは、「データのコピーを3つ作成」して「異なる2つの媒体で保存」し、「1つは別の場所で保管」する考え方です。
ここで、最初の「データのコピーを3つ作成」には元のデータを含めるかどうかによって意見が分かれることはありますが、元のデータを含めずに「コピーを3つ作成」することをお勧めします。
そして、「2つの媒体」に保存することで、バックアップの信頼性を高められます。
2つの外付けストレージでも構いませんが、上記で解説したように、外部ストレージとクラウドストレージを併用することが効果的で、これが最後の「別の場所で保管」に該当します。
これにより、外部ストレージでの故障や紛失、盗難にも対応できますし、クラウドストレージでのバックアップや復元にかかる時間の問題にも対応できます。
データの復元手順の基本
バックアップを取得していれば、それで安心だというわけではありません。バックアップを取得していても、必要なときにそれを用いて迅速に復元できるかが重要です。
復元の手順がわからない、復元するのに膨大な時間がかかる、というのでは意味がないため、復元のテストを定期的に実施するなど、いざというときに確実にデータを戻せる体制を築くことが求められます。
データが失われたときの対応は、その原因によって変わってきます。そこで、まずは状況を冷静に確認することから始めます。
データが削除されたのか、ウイルスなどに感染したのか、物理的な故障なのか、といった原因を特定することが重要です。
この段階で無理に復元を続けると、データが上書きされたり、さらに破損したりする可能性があるため、慎重に行動することが求められます。
ファイルを削除した、特定のファイルに上書きしてしまった、というような場合には、必要なファイルだけを元に戻すことが考えられます。このときは、バックアップを取得した時刻などの情報を確認しながら、復元するデータを特定します。
ウイルスなどに感染した場合には、データをいったんすべて削除してOSなどをクリーンインストールしたあとに、バックアップからすべてのデータをコピーすることも考えられます。
ソフトウェアや設定ファイルなどは単純にコピーするだけでは動作しないこともあるため、慎重に復元が必要です。
もしディスクの故障などの物理的な障害の場合、買い換えるか、専門業者に修理を依頼することになります。
なお、データが復元できたとしても、同じ問題が再発しないように対策を講じることが重要です。
たとえば、物理的な故障であればハードウェアの定期的な点検や更新が考えられますし、ウイルスへの感染であればウイルス対策ソフトウェアの導入や従業員の教育なども考えられます。
まとめ
トラブルが起きてからバックアップの重要性に気づいたのでは後の祭りです。日頃からバックアップについて確認し、復元手順をシミュレーションしておくことで、データ損失のリスクを最小限に抑えることができます。
いざというときに慌てないよう、バックアップの体制については定期的に見直すようにしましょう。

増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)、情報処理技術者試験にも多数合格。
ビジネス数学検定1級。
「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピューターを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や各種ソフトウェア開発、データ分析などをおこなっている。
著書に『図解まるわかり セキュリティのしくみ』『図解まるわかり プログラミングのしくみ』『図解まるわかり アルゴリズムのしくみ』『IT用語図鑑』『IT用語図鑑[エンジニア編]』『Pythonではじめるアルゴリズム入門』『プログラマ脳を鍛える数学パズル』『プログラマを育てる脳トレパズル』(以上、翔泳社)、『プログラマのためのディープラーニングのしくみがわかる数学入門』『プログラミング言語図鑑』(以上、ソシム)、『基礎からのプログラミングリテラシー』(技術評論社)、『RとPythonで学ぶ統計学入門』(オーム社)などがある。